アリアの覚書

Twitterに投げるには長いことを書きます

新鋭短歌 使用問題

途中で出てくる【解答】は答えと同じなので伏せていることを意味します。掲載されている全短歌は書肆侃侃房の新鋭短歌シリーズのHPから閲覧可能です。

 

1

自販機のひかりまみれのカゲロウが喉の渇きを癒せずにいる
空を買うついでに海も買いました水平線は手に入らない
つむじ風、ここにあります 菓子パンの袋がそっと教えてくれる
『つむじ風、ここにあります』

 

2

俺は別に英語が得意なわけではなくしかし「アグリーです」と答えた
追い越してゆく追い越してゆくタクシーは真夜の光を追い越してゆく
全身が痺れるような提案のキラーフレーズ浮かばぬ夜は
『提案前夜』

 

3

おしまいはいつも「じゃあね」というきみに「またね」と返す祈りのように
真っ白なショートケーキのどのへんを崩せば好きになってくれますか
玄関のドアをひらけば吹いてくる風のことです春というのは
『ちるとしふと』

 

4

幾たびもあなたの頬を拭ってた泣いているのはわたしなのにね
わたしたち、と言いかけたあと別々の通貨のような言葉を使う
海からの風の付箋をはさみゆくTAKE FREEのひかりの冊子
『風のアンダースタディ

 

5

氷砂糖ひとつぶ舌にとけるまでは聞くねあかるい未来の話
じゃあ非常階段に来て。眼裏の雪のすべてが燃えきるまでに
こいびとのひとりひとりを街路樹に縛り付けたら燃えるのですか
『硝子のボレット』

 

6

非常時に押し続ければ外部との会話ができます(おやすみ、外部)
自転車の後ろに乗ってこの街の右側だけを知っていた夏
悲しいと言ってしまえばそれまでの夜なら夜にあやまってくれ
『夜にあやまってくれ』

 

7

寒気団のぶつかるところでお砂糖はおいくつですかとたずねています
本文に長い下線を引くときの波打ち際でぬれてゆく文字
わたくしはやさしくなりたいカルトンの銀貨をいちまいいちまいひろう
『瀬戸際レモン』

 

8

「痩せたな」と心配されて旧友がほんまに旧い友であること
直喩なら殺されました(越冬のオオハクチョウの羽ばたきを見た)
思うこと絶えない夜にまちがって押してしまったコーンポタージュ
『それはとても速くて永い』

 

9

ビスケット託して放つ伝書鳩その密告は食べても構わん
今日食せしもの唯一の緑なる小松菜そうだがんばれ小松菜
しのぶれど色に出でにけるわたくしと飲む焼酎はおいしいですか
『タンジブル』

 

10

ヒマラヤの使用済み切手の上をてんたう虫が登攀してをり
住民は監視カメラに見守られ囚人となり果てたのでした
窓に星座の映る真夜中本を読むわれもいつしか本と変はりて
『灰色の図書館』

 

11

さみしさは(ぽん、ぽ、ぽぽぽん)ランダムに押すスタンプのようであり(ぽん)
ざざざざざざざざざざざざ追い風が梔子姫を殺すのですよ
山間部および都市部はおよそ雨、NR(ノーリターン)とあるホワイトボード
『NR』

 

12

郷土史にその名なけれど甲斐のひと説教強盗妻木松吉
爆弾を仕掛ける場所がないじゃない薄さを誇る液晶テレビ
かき揚げのところどころに桜えび言うなれば死はすべて討死
『クラウン伍長』

 

13

何故生きる なんてたずねて欲しそうな戦力外の詩的なおまえ
つよい願いつよい願いを持っており群にまぎれて喉を光らす
好きでしょ、蛇口。だって飛び出ているとこが三つもあるし、光っているわ
『春戦争』

 

14

飲み切ったあとに生まれる暗闇をこぼさぬように缶をもつひと
ストライク投げても受け止めないくせにミットかまえて「恋」なんて言う
信号に進めと言われ歩きだす(ピッポー)せかいのルール(ピッポー)
『かたすみさがし』

 

15

どの口がそうだといったこの口かいけない口だこうやってやる
おまえらはさっかーしてろわたくしはさっきひろった虫をきたえる
寝言は寝てからいうつもりだが(さようなら)土のなかってうるさいだろう
『あそこ』

 

16

「世界観が世界を造っているのです、世界が世界観を、ではなくて」
ルーシーに「忍者っているの?」と聞かれ「少なくなった」と答えるわたし
「ハープとはゆめのほとり鳥の化身です」余命二ヶ月の館長は言う
『夢のほとり鳥』

 

17

呪いのこと愛って言うな ドラム式洗濯機は遊園地じゃねえよ
氷水から氷を出してあなたはぼくの水も氷水にしてくれた
花曇り パスタを塩でゆでるのはパスタが泣いてもわからんように
『花は泡、そこにいたって会いたいよ』

 

18

サントリーホールで謝罪 言い訳をより美しく響かせるため
この道はいつか来た道 ああそうだよ 進研ゼミでやったところだ
春ですね あなたのいない停車場にときどき水がたまっています
『新しい猫背の星』

 

19

心にもないことばかり言いたくて何も言えなくて夏みかん
我々は並んで帰る (エロ本の立ち読みであれ五人並んでだ)
僕はもう火星に帰る。無愛想なペンギン。クジラ。三毛猫ばかりだ
『【解答】』

 

20

傘をさす手を奪われて夕立のほのかにぬるい世界を泳ぐ
〈ありがとう〉と〈ごめんなさい〉の水源はおなじ どの坂から金木犀
空の絵を描けといわれて窓という窓を砕いて額縁にする
『青を泳ぐ。』

 

21

そのひとは五月生まれで「了解」を「りょ」と略したメールをくれる
ヴォリュームをちょうどよくなるまで上げる 草にふる雨音のヴォリューム
つま先を上げてメールをしていたらかかとで立っていたと言われる
Bootleg

 

22

あすひらく花の名前を簡潔に未来と呼べばふくらむ蕾
廃品の中でひときはたくましく空を見上げてゐる扇風機
八月のフルート奏者きらきらと独り真昼の野を歩みをり
『八月のフルート奏者』

 

23

そのときに付き合ってた子が今のJR奈良駅なんですけどね
海だけのページが卒業アルバムにあってそれからとじていません
黒板に夏と書いたのは誰ですか名乗り出るまではじめませんよ
『トントングラム』

 

24

地獄ではフードコートの呼び出しのブザーがずっと鳴ってるらしい
This video has been deleted. そのようにメダカの絶えた水槽を見る
もういやだ死にたい そしてほとぼりが冷めたあたりで生き返りたい
『サイレンと犀』

 

25

「花束」の手話がわからず思い切り抱きしめてみる たぶん合ってる
だいすしなあなたにすきを奢りますちなみに回るほうのすきです
コンビニに生まれかわってしまってもクセ毛で俺と気付いてほしい
『コンビニに生まれかわってしまっても』

 

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1 木下龍也
2 堀合昇平
3 千原こはぎ
4 鈴木美紀子
5 田丸まひる
6 鈴木晴香
7 蒼井杏
8 法橋ひらく
9 鯨井可奈子
10 惟任將彥
11 天道なお
12 斉藤真伸
13 陣崎草子
14 田中ましろ
15 望月裕二郎
16 九螺ささら
17 初谷むい
18 尼崎武
19 しんくわ
20 杉谷麻衣
21 土岐友浩
22 笹井宏之
23 伊舎堂仁
24 岡野大嗣
25 西村曜